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大阪高等裁判所 昭和61年(行ス)10号 決定

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別紙「抗告状」記載のとおり

大阪地方裁判所が同庁昭和六一年(行ウ)第七、第八号更正処分取消請求事件につき同年六月九日なした移送決定に対し抗告人から即時抗告の申立てがあつたので次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

抗告理由にそつて考えるに、当裁判所も本件訴訟に神戸地方裁判所に移送すべきものと判断するが、その理由は原決定の理由説示と同様であるからこれを引用する。

したがつて、原決定は相当であつて、本件即時抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 奥輝雄 裁判官 杉本昭一)

抗告状

兵庫県加古川市志方町東中一八六番地の一

抗告人 木村薫

大阪市北区西天満四丁目六番四号堂島野村ビル二階

右代理人弁護士 伊賀興一

大阪市北区西天満四丁目六番三号第五大阪弁護士ビル二階

右代理人弁護士 矢島正孝

兵庫県加古川市加古川町字木寺五の二

相手方 加古川税務署長

門脇利穂

移送認容決定に対する即時抗告申立

右当事者間の大阪地方裁判所昭和六一年(行ウ)第七号、第八号更正処分取消請求事件につき、同裁判所が昭和六一年六月九日付をもつてなした後記決定は不服につき抗告を申立てる。

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

本件移送申立を却下する。

手続費用は相手方の負担とする。

抗告の理由

第一、原決定

前記更正処分取消請求事件訴訟は大阪地方裁判所において受理され、第一回口頭弁論期日を昭和六一年五月三〇日午前一〇時と指定されたところ、相手方は右第一回口頭弁論期日において右訴訟を神戸地方裁判所に移送する旨の申立をなし、同裁判所は昭和六一年六月九日付をもつてこの移送申立を認容し、右訴訟を神戸地方裁判所に移送する旨の決定をした。

第二、原決定の理由

原決定の理由とするところは、本件訴訟については、行訴法一二条一項を適用して相手方の所在地の裁判所である神戸地方裁判所の管轄に属するとし、抗告人が主張する行訴法一二条三項が適用される場合には該らないというのである。

第三、原決定の不当性

(行訴法一二条三項の立場趣旨)

一、取消訴訟の裁判管轄について、行訴法は、一二条一項において被告となる行政庁の所在地の裁判所の管轄に属することを原則とするも、例外として同条三項において「当該処分または裁決に関し事案の処理に当たつた」下級行政機関の所在地の裁判所にも管轄を認めている。

このような制度が設けられたのは、特定の行政庁が当該処分をなすにつき独自の、充分な調査や資料蒐集をなさず、むしろ他の行政機関がなした調査結果に拘束されて行政組織の機構上形式的に行政処分をなしたに過ぎない場合には、当該処分取消の是否を裁決するについては訴訟資料を掌理しない形式上の処分庁所在地よりは当該処分の理由となつた資料の蒐集や調査に実際に当たつた行政機関所在地においてこれを審理するのが適切、便宜であり、かつ原告においては被告である行政庁に対して処分の理由となつた事実に関する証拠の提出を求めるに迅速であるということ、さらにその方が訴訟当事者双方にとつて訴訟経済に適うという趣旨にほかならない。

また、同条三項は、形式上の処分をしたに過ぎないのに被告となつた行政庁において証拠資料が事案の処理に当たつた他の行政機関に掌握されていることを理由に立証を遅延させることを防止することをもその趣旨としているというべきである。

(「下級行政機関」の意味)

二、原決定は、大阪国税局は被告加古川税務署に対する関係では「下級」行政機関とはいえないという形式的な理由で行訴方一二条三項の適用を排斥しているのであるが、同条項にいう「下級行政機関」とは当該処分をなした行政庁のさらに「下位」の行政庁のみを指すものではない。

同条項が右のような管轄を定めたのは、前述のように行政機構の中では処分庁が常に調査や資料の蒐集等「事案の処理」に当たるとは限らず、むしろ他の行政機関が調査したり資料を蒐集した結果を得てこれに依拠して(実際にその資料に拘束されることになる)形式的に処分をなす場合が多いことを予想しているのであるが、その場合事案の処理に当たる行政機関は処分庁よりも「下位」のものが通常であるにしても、すべての場合に、いわゆる上下関係における「下級」とは限らないのであつて、事実、本件においては処分庁たる相手方よりも「上位」の大阪国税局が事案の処理に当たつているのである。

原決定のいうように、同項にいう行政機関は処分庁よりも「下位」のものに限るとする合理性は何ら見当たらないのであつて、むしろ「上位」の行政機関が事案の処理に当たつて「下位」の行政機関が処分をなす場合には上位行政機関の事案処理の結果は行政組織の系統からして処分内容を拘束することになり、このような場合取消訴訟の審理の対象となるのはまさに上位行政機関の事案の処理の内容そのものであり、処分庁の行為は審理のうえで極めて比重の軽いものとなるのである。

三、したがつて、行訴法一二条三項にいう「下級行政機関」とは、処分庁との関係で「下位」の行政機関を限定したものではなく、国家行政組織法により定められた各行政機関を限定したものではなく、国家行政組織法により定められた各行政庁を頂点とする行政組織の系統の下での行政機関を総称するものと解さなければならない。

(本件訴訟資料を掌握する行政庁)

四、ところで、本件では大阪国税局が抗告人に対し、昭和五五年五月一三日に強制捜索をなしたのを始めとしてその後同局査察部が二年間に亘り継続して調査に当たり、決定の翌日にはすばやく昭和五七年五月一八日には同局が徴収の引受通知を発するとともに、同日不動産および債権等の差押をなしているものである。

このことは、昭和五七年五月一七日付被告名義の原処分通知書欄外にて「この処分は国税局の職員の調査に基づいて行いました」と表示され、また大阪国税不服審判所長名義の裁決書(一八頁)にも「原処分庁が査察官の調査資料に基づき」原処分をなしたことが表示されていることからも明らかである。

したがつて、本件訴訟資料の殆どが大阪国税局において掌握されており、とくに証人として予定される調査に当たつた査察官は同局に属している。

右は、本申立添付の疎明資料において明らかである。

(法令適用の誤り)

五、このように、原決定は行訴法一二条の解釈適用を誤つたものであるので取消さなければならない。

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